高齢出産とは、統計上や医学上において女性が35歳以上で子どもを産むことをいいます。厚生労働省の統計情報部のデータによると、35歳以上の出産は全体の16%というウエイトで、そのうち第一子出産が3人に1人という状況となっているそうです。いわゆる高齢初産というわけです。

35歳以上という年齢で一応の設定をしていますが、この年齢に特別な意味があるというわけではありません。一般的に高齢出産のリスクというものが30歳を超えたあたりから次第に高まっていくものであって、35歳を越えると急に危険性が高まることではありませんからご留意ください。

この高齢出産が増加している原因は既に多くが語られている通りで、結婚年齢の上昇や出産率の低下があげられるのですが、これは世代的な思想よりも現代を取り巻く経済環境や生活環境の方が影響していると考えられています。晩婚化現象については先進国だけでなく途上国でも確認されており、もはや世界的な現象となっているようです。

国連が世界192カ国を対象に調査した報告書によれば、1970年代と1990年代では、1970年代と1990年代を比較すると、世界の平均初婚年齢は2年近く遅くなっているそうです。日本では変な話ですが、男女お互いの「高望み」による需要のミスマッチというのも原因とされています。

高齢出産のリスクには「高齢妊娠」と「高齢分娩」に関するリスクの2つに分けることができます。しかし、実際の高齢出産では大半は正常な妊娠～分娩の経過をたどっていますから、高齢出産が常に高いリスクを伴っているという意味ではなくて、妊娠や出産時の夫婦の年齢が高い場合は、若年での妊娠、出産と比較して相対的にはリスクが高くなるということを指しています。

まず「高齢妊娠」のリスクですが、当然妊娠そのものがしにくくなるというリスクがあります。これは年齢が高まるほど卵子の質が劣化する傾向にあるので妊娠しにくくなるのです。又、年齢が高まって卵子の質が劣化、老化すると、染色体異常などが起こりやすくなるのも事実です。男性側でも加齢からくる精子のDNA損傷による影響も確認がされています。

「高齢分娩」のリスクとしては、母体が危険になることもありますが、それ以上に流産や早産をする危険性が増加するといわれています。危険因子としては、遷延分娩や分娩停止、産道損傷、帝王切開率の上昇、分娩時出血量の増加、などとなっています。高齢初産の場合は特に母体の健康が損なわれる危険性があるので注意が必要となっています。高齢出産は、経済的な余裕ができてから子育てができる環境など、社会的にはメリットもありますが、肉体的な負担については十分留意する必要があるというわけです。

35歳以上ともなると、それなりに各人が人生経験を積んできています。逆に言えば、自分の可能性や限界も若干ながら見えてくる時期でもあります。それは「何か新しいことを始めたい年頃」でもあるのです。そんな時期にタイミングよく高齢妊娠したのなら、かなり幸せに感じるのではありませんか。何といっても、人を一人育てるというまさしく壮大な目標ができるわけですから、これはどんな仕事や遊びよりもずっとやりがいを感じて当然でしょう。そのせいか、高齢妊娠者は、産婦人科選びからすでに積極的になる傾向があります。

せっかくのことだから納得のいく出産がしたいし、ひょっとするとこれが最初で最後のことかもしれない、という気持ちも起きると思います。そして、高齢出産に関する情報を仕入れるノウハウもしっかり持っている場合が多いようです。40歳で出産したある女性は「高齢というリスクがあったからこそ、10ヶ月間を楽しめましたし大切にできました。きっと若い頃でしたら、お腹が突き出でカッコ悪くて嫌だとか、身体が重いから早く出してしまいたいとか、そういうことしか考えなかったかもしれません」と言っています。

妊娠や出産を積極的に受け止めるというのは、高齢出産者の特権とことでもありませんが、高齢出産のリスクを抱える分以上に喜びも大きいことでしょう。更に、出産に続いて子育てについてもその気持ちは反映されるはずです。いろいろな人生の倦怠期にあって、これは天から与えられた至福の時かもしれません。まだ遊び足りない若い時期の子育ては、とかく「もっと解放されたい」と思うものですが、高齢出産の場合なら逆に束縛されることに喜びさえ感じることができます。

出産するには当然妊娠という工程を踏むわけですが、高齢になると妊娠そのものが難しいとされていますし、妊娠できたとしても、無事に十月十日を過ごせるかと不安な人も多いと思います。　そんな不安を解消するため、まずは準備として妊娠前にするべきことを確認していきましょう。

まず、妊娠出産には母体の体力が欠かせません。1日30分程度を目安として適度な運動を行い、加齢とともに衰えていく体力を維持するよう心がけましょう。又、肥満は血流が悪くなり卵巣の働きを鈍らせる原因ですし、痩せ過ぎは月経不順につながるので無理なダイエットも気をつけましょう。次は食事です。偏った食事は生活習慣病の原因となり、妊娠中毒症や妊娠糖尿病など妊娠中のトラブルをも引き起こしかねません。特に血圧が高い人は塩分を控えたり、血糖値が高い人は甘いものを控えるなど、各人の体質にあった食事管理が大切です。

基礎体温も日頃からつけて、月経や排卵などをチェックしてください。更に、年に1度は婦人科検診を受けて子宮や卵巣をチェックしてもらうと安心度がぐっと高まります。高齢になると何らかの持病を抱える場合も多くなります。妊娠してからその持病がわかったのでは問題ですから、妊娠前の健康診断は若い人よりもずっと重要です。

高齢出産はよく難産といいますが、比率的には安産だった人の方がずっと多いのです。そもそも、安産とはどんなお産のことをいうのかといえば、医学的には異常産ではない分娩を安産といいます。異常産とは分娩が停止したり、胎児が仮死状態になったり、医療処置を施さなければ母子共に命が危険な状態にあることを意味します。

しかし、あくまで専門的なことであって、分娩がどんな方法であっても、時間が平均より長くかかったとしても、結果として母子共に元気ならば、それが安産だといえます。どんなお産をするかは関係なく、いかに安全なお産ができるかが大切なのです。難産とは赤ちゃんの状態を悪化させてしまう出産のことです。母親の自制が効かなくなってパニックになったりすると、全身にも力が入って産道を狭めてしまいますが、これはお産の進行が遅くなるだけではなく、赤ちゃんに酸素が十分に行き渡らなくなって苦しめてしまう可能性もありますが、これが難産の例です。

高齢出産ではむしろ精神的に落ち着いて出産に臨めるのだとメリットに感じるようにすることがポイントです。どちらにしても、出産が難産にならないように妊娠中からイメージトレーニングをしておくといい結果が多いようです。又、子宮や会陰切開など傷の回復には個人差もありますが、若い母親とさほど変わりはありません。お産の時に出血が多かった場合は回復が少し遅くなる傾向がありますが、お産の影響を何ヶ月も引きずることはごく稀ですから、高齢出産だからと過度に心配することはありません。